事業拡張の不安を打ち消すには?
ある経営者さんの事例を紹介します。
その経営者さんは、起業してわずか2~3年で数十名のスタッフを採用し、売上収益ともに業界トップレベルまで順調に成長していきました。そんな中、人材育成の課題を持たれていました。事業の急拡大により今以上に質も量も加速化させなければならなかったのです。
しかしながら、ある重要なことを明確にせず、不安を抱えていました。
明確にしていなかったこと。それは会社が最終的に目指すべき目的地。そして判断軸でした。つまり「企業理念」がなかったのです。
企業理念とは、私たちは何の為に経営するのか? 何の為に存在するのか?の問いの答えであり、 それはまさしく経営者としての生き様に対する答えでもあります。
不安を解消するとはつまり自分の揺るぎない判断基準を明確にするということです。判断基準が明確になれば、その後の行動のブレの軌道修正もしやすくなります。判断の境界線が曖昧だと、社員やお客さまの信頼関係が損なわれる、行動そのものが停滞するなどの損害が起こる可能性があり、さらなる不安のスパイラルを引き起こしてしまいがちです。
事実わたしのお客様が事業についての不安を抱えている場合に、その不安の原因と判断基準を整理するだけで不安が解消された例が数百間件以上あります。軽いものでは5分かかりません。ですが未来を左右する決断ではそういうわけにはいかない場合があります。一時的な案件ではなく中長期に関わる重要な決断については、揺るぎない判断基準と目的地を明確にする必要があるのです。
その経営者さんの最も重要な判断軸と目的地を定めるべく、セッションが始まりました。
過去から現在まで人生の棚卸しをホワイトボードに書き表し整理する中で、一貫して貫くものが見えてきました。
無意識のうちに貫いてきた事。それは常にどんな時でも、物事の本質を見つめ、本物になるには? 一流になるには? という視点を持ち、考え追求してきたということでした。
そこには、本人も当たり前過ぎて感じてさえいない強い一本の芯が見えてきました。圧倒的なエネルギーがありました。そしてそれが見える事で周辺にある価値基準も明確化されていきました。
それだけを聞くと皆さんは「・・だからそれで?」と思われるかもしれません。
私は問いかけました。
「あなたはなぜ、それを目指すのですか?」
「そのお答えいただいた事を目指すのは一体なぜですか?」
このような問いと答えが幾度も繰り返されました。問いの答えは最初のうちは軽快でしたが、徐々に経営者さんは問いの答える速度が下がり、最後には数秒間の長い沈黙がありました。
「なぜかというと… 今後人類が危機に陥いるときがくる。その時、地球を救う必要があるからです」
しっかりとした口調でおっしゃいました。そしてその最後の問いの言葉は、ほぼそのまま企業理念となりました。
「平和的進化を遂げる人を育て、地球を救うこと。」
この最後の問いの言葉により、理念成文化の1つのピリオドが打たれました。企業理念は、よほどのことがない限り変えることがありません。だからこそ究極的なエネルギーが極まり、確信した答えを見つける事が重要です。
それを決める前は大変消耗しますが、不思議と決めた瞬間、頭と心が驚くほどスッキリ爽快になります。そしてあらゆる選択が一変に速やかで楽になるのです。
経営者さんが、その後にその企業理念をスタッフと共有した後に、お会いしました。
そしてその時、とても清々しい顔をしてこう語ってくれました。
「本当に理念がスッキリまとまって良かったです。何故ならあれから判断事に迷いがなくなって早くなったからです。恐らく自分についてあれだけ深く掘り下げる事が出来たからだと思います」
あなたが今もし未来を左右する重要なターニングポイントにいるとしたら、絶対的に貫ける判断軸を掴むということは、その不安を打ち消す一番の近道なのかもしれません。